5歳からヴァイオリンを始め、中学生からはジュニアオーケストラでヴィオラの演奏もスタート。国内外で数々のオーケストラや著名なソリストと共演し、その演奏歴は約30年という三原明人先生。現在は、数々のオーケストラと共演するほか、自身主宰による「アンサンブル・テレマン」にてヴァイオリンとヴィオラのソロと室内楽演奏で活躍中です。演奏者としてだけでなく、作曲家、指揮者としても活動。講師としては、現在東京音楽大学指揮科で指導を行う傍ら、ヴィオラ、ヴァイオリンのプライベートレッスンを行っています。今回のインタビューでは、指揮者、作曲家としても活躍する三原先生のこれまでの軌跡やヴィオラの魅力、レッスンのポイントなど、さまざまなお話をお聞きしました。
-三原先生は、ヴァイオリン、ヴィオラの奏者、作曲家、指揮者とさまざまなお顔をお持ちですが、そのような多彩な活動をすることになった経緯を教えて頂けますか?
始まりは、趣味でヴァイオリンを習っていた7歳のころ。ふつうの子供はひたすら弾くことに夢中になると思うんですが、僕は与えられた“曲”のほうに興味があって。たとえばレッスンで「バッハのやさしいコンチェルト」を弾きましょうとなると、弾いているうちに、その曲を真似したスタイルで自分の曲を書いてみたくなるんです。いざ書いてみるとすごく楽しくて、自分で作曲して弾くという喜びが生まれて、それからヴァイオリンの独奏曲をたくさん書くようになりました。中学生で地元のジュニアオーケストラに入ってからは、交響曲やオーケストラの曲があることを知り、ほかの人の管楽器や打楽器の演奏も聞くようになったことで、独奏以外の曲も作り始めました。人と合奏することのおもしろさを体感し、趣味ではなく専門の勉強をしたいなと思い始めたのも、ちょうどこの頃からです。
-ヴィオラを始めたのも、その頃ですか?
そうですね。ヴァイオリンは弦楽器の中で花形ともいわれ、誰でも知っている楽器。メロディーを一番高い音域で弾くことから華やかに見えますし、音楽学校でも専攻する人が多いんです。対してヴィオラは認知度も低く、ソロの曲も少ないし、わざわざやろうと思う人は少なかった。当時のジュニアオーケストラの中でも弾く人がほとんどいなかったので、だったら自分がやってみようと。作曲をやっていた関係上、いろいろな楽器に興味がありましたし、弓使い、指の押さえ方、構え方はヴァイオリンと同じなので演奏しやすかったというのも理由の一つです。そのためヴァイオリンからヴィオラへ転向する人が多いようです。
-東京芸術大学ではヴァイオリンではなく、ヴィオラを専攻なさったんですよね。
はい、ヴィオラを学びながら、作曲もずっと続けていました。指揮者としての勉強をしたいと思い始めたのもこの頃です。在学中に自分で書いた曲をオーケストラとヴィオラのソロで演奏することになり、私はヴィオラを演奏し、指揮はほかの人にしてもらったんですが、そこで感じたのは、自分が作った曲を人様に託すとこんなに違うものになってしまうのかと(笑)。やはり自分が作った曲というのは、自分が一番良く知っているものなんですよね。ですから、自分で指揮するのが一番なんです。モーツァルトもベートーベンもワーグナーも指揮者。曲を書くし、楽器を演奏するし、オーケストラで指揮をしている。それに気づいたとき、オールマイティな音楽家を目指そうと、指揮を勉強するためウィーンの国立音楽大学へ留学しました。その後、ヨーロッパで指揮者として舞台に立ちながら、ヴィオラの演奏も続けていたんですが、中でもレナード・バーンスタイン、クラウディオ・アバドという世界的な指揮者のアシスタントをできたことは非常に勉強になりました。指揮者としては、彼らがどう音楽を作っていくのか、すぐそばでその過程を見られたこと、演奏家としては彼らの指揮でオーケストラの一員として弾きながら体感できたこと、それが今の自分の大きな糧となっています。
-ヴィオラという楽器について、まだ良く知らない方のためにも、演奏歴30年の三原先生からその魅力について教えて頂けますか?
ヴィオラは、ヴァイオリンに比べて音域が低く太い音を出します。いぶし銀の声といわれ、その独特の渋い音はまず大きな魅力だと思います。また、合奏においてヴィオラは内声にあたるので、高い音のヴァイオリン、低い音のチェロといった外声の間で、どれだけしっかりと接着剤の役割を果たせるかということがポイントになります。音楽の進め方をリードしてあげるパートであり、全体の演奏の成果にとても影響がある。いうなれば、縁の下の力持ち。作曲する過程でそのことがわかり、演奏する立場としても魅力的な楽器だと感じるようになりました。それから、バッハやモーツァルトといった大作家は、弦楽器を合奏する際、必ずヴィオラを演奏していたというのも興味深い話です。なぜかというとやはり合奏の際、中に入って全体を見渡すことができ、統率をとるには最適なセクションだからだと思います。ほかにも、「新世界交響曲」で知られるアントニン・ドヴォルザークはヴィオラ奏者でした。ヴィオラのことを知り尽くして曲を書いているので、必ず見せ場のおいしい場面になるとヴィオラにメロディーが回ってくる(笑)。そういうことを知って演奏すると、ますますヴィオラという楽器の奥深さ、おもしろさを感じられると思います。
-三原先生が始めた当時から比べて、ヴィオラはだいぶポピュラーになったのでしょうか?
人口的にヴァイオリン奏者と変わらないくらい増えつつあります。特に若い奏者が増えてきましたね。ヴァイオリンの名曲はそれこそたくさんありますが、ヴィオラの名曲はまだまだ少ないので、そこに着目し、現代作曲家がヴィオラのための曲を書くようになっています。新しい自分の音楽を作るための楽器として注目されている傾向があり、まだまだ魅力が開発できる途上の楽器といえますね。
-では、具体的なレッスンの進め方について教えてください。
まずは、ご自身が演奏したい曲を実際に弾いて頂き、どの程度マスターされているのか診断してから、レッスンの進め方を決めていきます。事前に自分が弾く指使い、弓使いを書き込んだ楽譜を送って頂くこともお願いしていますね。皆さん、体も指もそれぞれ構造が違うので、書いたとおりできる人もいれば難しい人もいる。レッスンでは、その選択が合っているのかを確認しながら、アドバイスしていきますが、レッスン前にまず、生徒さんがどういうふうに音楽を作ろうとしているのか理解しておくことは、とても大切だと思っています。
-生徒としては、事前に情報を共有できると、レッスンも効率よく進められて嬉しいですね。
ほかにも、今年になって始めたことなんですが、レッスン前に生徒さんに演奏を録画して頂いて、それをYoutubeに限定公開でアップしてもらう方法も取り入れています。私がそれを観てお伝えしたいことを事前にまとめておき、コメントしながらレッスンを進めていくという流れ。生徒さんとしては、録画した演奏をご自身で見るわけですよね。たいがい自分の演奏って嫌だなと思って何度か撮り直すと思います(笑)。そこから、ある程度これなら観てもらえるかなというレベルまで仕上げてアップする。その時点ですでに成長しているんですよね。自分のことを客観的に見て嫌だなと思った部分を直しているので。レッスンでは、私が観て問題に感じたところだけ抜き出して演奏してもらうので効率もよい。これは、オンラインレッスンにおけるメリットだなと実感しています。
(※動画を使用したレッスンは対面レッスンでは行っておりません)
-効果的な練習方法も教えて頂けるということですが、それはどのようなものですか?
練習は、長くやればよいというものはないんですね。うまくなる練習とそうでない練習がある。うまく弾けていない箇所があれば、どうやって練習してるのかを聞き、どういう練習をしたら効果的かお伝えしています。それから、1日に15分しか練習できないという忙しい方には、限られた時間で何をしたらよいかという点もアドバイスしますね。でも、必ずしもプロの方ばかりではないので、完璧を目指さなくていいという方も当然いらっしゃいます。楽しんで弾くことが一番で、それにはどうしたらよいか。それぞれご本人の目的や、目指すレベルに合わせたレッスンを一緒にできたらいいなと考えています。
-三原先生のレッスンの強みはどのようなところにあると思われますか?
少しおかしな話ですが、自分が天才的なプレイヤーではなかったので、人に教える立場になったとき、できない人の気持ちがわかるということです。野球の世界でも名選手=名監督ではないという話がありますが、天才的にできてしまう人は、ほかの人がどうしてできないのかわからないという場合が多いんじゃないかと。私が専門家を目指したのは15歳と遅いほうなので、苦労しながら技術を習得して“できないことができるようになった”という経験をたくさんしてきました。それが今役立っているかなと思います。それから、作曲家、指揮者としては、音楽的な視野を広く持つことが必要なので、その経験によって多角的な方面からプレイヤーを見られるようになったと思います。なので、ヴィオラ奏者だけだったら見えてこなかったアドバイスができるのではないかと。たとえば、演奏技術は完璧でも、音楽を作るという作業ができない人がいます。弦楽器は技術が難しいので弾けたらOK!と考えてしまう人が多い。ビブラートができればたくさんかけたり、弓を早く使えたらとことん早くしたり、必要がない場面でも、持っている技術を全部出してしまうことがあるんです。でも音楽は、どういう音を鳴らしたらよいか理想に基づいて音を作っていくもの。技術の正しい使い道を見い出せるようなアドバイスができたらと思っています。
-音大受験対策のレッスンも実施されていますが、その内容について教えてください。
大学によって課題曲の傾向があるので、まずはどの学校に行きたいか照準を合わせること。それによってレッスンする曲を決めていきます。入学試験は、ほとんどの場合、伴奏なしで1人で弾かされるので、スケール(音階)をちゃんと弾けるようになることは基礎中の基礎。審査員を前に1人で弾くとなると、たいていの人は緊張して平常心を保てなくなり、自分の音も聞こえなくなってしまいます。それでも崩れない指の形、フォーム、守っていけるスケールを鍛えていくようなレッスンをできたらいいなと思います。どんな大家でも本番のときは緊張します。なので、試験のときは最初から「平常心では弾けない」という覚悟で(笑)。確かな技術と気持ちの強さを持っていられるよう生徒さんをサポートできたらと思っています。
-これからヴィオラを購入する人は、どのように選んだらよいでしょうか?
ヴィオラは短いもので38cm、大きいもので43cmと胴の長さに差があります。標準的なサイズは40㎝なので、それをひとつの目安にしたらよいと思います。竿も太さがまちまちで、細ければ指で弦を抑えやすく、太いと抑えにくいという傾向があります。ご自身の体形や指の付き方、長さによって自分にフィットする楽器を選ぶことが大事ですね。楽器選びでは、当然いい音が出ることも大事ですが、まずはしっかり持てること。手を伸ばした状態で、竿の先端にある糸巻きを掴めるかどうか。これも1つの基準です。
-本格的に講師を始めてから10年ということですが、レッスンをしていて嬉しかったことはどんなことですか?
レッスンは、生徒が一方的に先生から受け取るものではなく双方で一緒に勉強するもの。生徒さんのほうがいいアイデアを持っている場合もありますし、自分が考えていない音楽を持っていることもあります。それを吸収しながら、さらによくするためにはどうしたらいいか、生徒さんの個性を見つける過程がレッスンだと思っています。ですから、同じ曲を、同じ弓使い、指使いで教えたとしても、みんな絶対に同じ演奏にならないんです。そうやって、それぞれの良さが出たときは本当に嬉しいですね。私自身も、生徒さんのおかげで自分の音楽の引き出しが増えるので、まさにギブアンドテイクだと思っています。
-では最後に、 これからヴィオラを始めたいという方へメッセージをお願いします。
ヴィオラを始め弦楽器は、音を出せるようになるまでが難しいもの。誰かが弾く音を聞いて素晴らしいと思って始めてみたものの、自分ではその音にならないという悩みを抱えることからスタートします。そこでつまずいてしまうと、興味が失せてしまうことがあるかもしれませんが、ある程度音を出せるようになれば、その先はスムーズ。ヴィオラの音に魅力を感じて始めたら、いつかはその音が出るぞという気持ちを諦めずに、理想のイメージを持ち続けて取り組んで頂けたら。そのために私も一緒に勉強しながら理想の音楽を作っていけたら嬉しいですね。
取材・文/岡部徳枝 text by Norie Okabe
【講師演奏動画】
主なレッスン場所
松戸、柏、池袋、巣鴨、千石、日暮里、西日暮里、北千住、綾瀬、オンラインレッスン
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